珠屋は逗子に店を構える以前、元々、葉山の森戸(今の海の家「珠屋」があるところ)にあったそうです。 「そこでは「川尻の高梨」と呼ばれていました、いわゆる通り名ですね。屋号は薪屋だったそうです。「川尻の高梨」の家は「入り高梨」という本家から明治時代より前に分家してできたようです。」「戦時中から葉山の森戸でかき氷屋や、写真館などの商売をしていたようです。 今の「海狼」の前身の「かぎや」さんという老舗の旅館が、森戸の川を挟んであったものですから、 それで「珠屋」と名乗ったのが始まりと聞いております。」 「今でもあります森戸の海の家“珠屋”からスタートしたんですよ」 なるほど。花火の屋号をなぞらえて名づけたのですね。しかし、商売の方は花火のように一瞬で消えてしまうということはありませんでした。 ※「入りと川尻」の呼び名については、河口側=川尻の高梨に対して、それより奥に・入った・処の高梨ということらしい。『川尻の高梨』は『まきや』とも呼ばれ、珠屋の前身である。関東大震災以前は森戸川に「五十石船」という50トンの荷を積めるほどの帆と動力をもつ大きな船を引き入れ、荷を積んで(今の運送業)千葉へ行き、帰りは「まきや炭」を仕入れ戻ってきていた。それを鎌倉、江ノ島方面にも売りに出ていたという。こんな仕事を体の弱かった父親を助け母親トキさんと共に、その右腕となって商売を企画・実行に移していったのが珠屋の初代社長“高梨冨右衛門”だったという。当時は逗子ではなく葉山に市場がたち、とても賑わっていたと聞く。 高梨文社長が逗子に来られた時は、既に逗子にお店を構えておりました。 「主人(初代社長)に『おまえはここ(店)の中にいるのが仕事だ』と言われました。 昔のやり方ですよね。」 家族のあり方としては、確かに昔のやり方だったかもしれません。しかし、「年中無休でお店を開け、常に中に責任者がいる」という営業方針を打ち出された先代社長のサービス精神は現在でも大切なこととされています。社長のサービス精神と、その気持ちを形にする社員の方々の誠実さが「珠屋」の基本的な支柱なのかもしれませんね。 昭和25年頃は、まだ政財界の大物の別荘地として賑わっていた逗子界隈の様子について 「当時は逗子の方はここ(逗子銀座商店街)で生活のほとんどを賄っておられたようですよ。あと、この近辺のお屋敷のご注文にお答えする、いわゆる「御用聞き」がまだ残っておりまして、薬屋さんですと、シャンプーひとつのご注文でもお届けに伺ったようですよ。」 もう少し珠屋の話を、、、、 「当初は写真屋と喫茶店、お菓子屋などを営んでおりました。その頃から初代社長の弟(七人兄弟の末“先代社長”)が陰の力となって助けておりました。そこで、カップケーキをお出ししたのが評判を呼んで、洋菓子作りにも携わるようになったのね。」 それから逗子で洋菓子と言えば珠屋として、逗子生まれの方の思い出には必ず登場する店となっていったのですね。 「いつも、珠屋のケーキを見ているんです。いつもと少し違うと、すぐ上(工場)に行って、確認しておりますね。私は職人ではありませんが、毎日見ておりますと、お店にお出しするもののちょっとした違いがわかるようになってまいります。常にこの目で見て、良いケーキをお店に出すよう心がけておりますよ。 それから、珠屋のケーキは添加物をいっさい使っておりませんので、ショーケースの中にも常に気を配っております。」 ちなみに社長のお気に入りのケーキを尋ねてみますと、意外にも、 最もポピュラーなケーキの名前が返ってきました。 「苺ショートかしらねえ。私たちが洋菓子を始めた頃は、生クリームはとても珍しいものだったのですよ。」 なるほど。ショートケーキに始まりショートケーキに帰るんですね。当時の生クリームのインパクトというものは計り知れないものがあるようです。珠屋ならではのバタークリームについての話も伺いました。 「バタークリームの材料、特にバターには拘っておりますね。フレッシュな無塩バターとラム、オレンジリキュール、それに蜜状にしてよく練ったお砂糖を使った贅沢なものです。香りも味も濃厚で美味しいクリームですよ。是非、お試しください。」 ちなみに珠屋でバタークリームを使ったケーキといいますと、 ・ザバロール ・あんずモカ ・デビルスなどがあります。 「珠屋」を経営する上で心がけておられることについてお聞きすると、 「真面目であること。いいものを作るために一所懸命に努力すること。従業員がみんな仲良く仕事をすることですかねぇ。当たり前のことを当たり前にキチンとやることが結局大切なことだと思います。」 「座右の銘は‘和'を大切にということでしょうか。毎朝そのことを社員の方々や自分自身に言い聞かせています。それが全てのことに繋がりますものね。」 ‘和'を大切にすること。まさに全ての基本となることですね。 お客様との‘和'、従業員の‘和'。お客様との‘和'はサービスにつながりますし、従業員の‘和'は経営の安定につながります。これらを大切にしてきたことが、「珠屋洋菓子店」が現在も地域の老舗として活発に活躍されている理由なのかもしれません。
語り手:珠屋洋菓子店社長 高梨 文(たかなし あや)
インタビュー:モナドデザイン(川島、田辺)